山登りが好きな人は、伊藤正一さん著の『黒部の山賊』をお読みになったことと思います。黒部の山賊は戦後の1950年〜1960年ごろの黒部川源流に住む山男たち(山賊と言われていますが、実際は猟師)の生活と、雲の平を中心にいくつかの山小屋を再建した伊藤正一さんの実話です。山を登る人たちにとって山小屋がどれだけ大切な存在なのか、伊藤正一さんの人生を賭けた取り組みが描かれています。
この本を読んで一番印象に残ったのが「カベッケが原」。黒部川源流(薬師沢)と薬師岳の間に広がる広大な湿地帯で、「カッパが化ける原、すなわち河化ヶ原」と書かれています。おもしろいのが、カベッケが原で「オーイ」という声がしたら返事をしてはならない。「オーイ」と返事をすると行方不明になるとか。返事をするなら「ヤッホー」と言え、とあります。
実際カベッケが原にいくと、今は木道がしっかり整備されていて道迷いはなさそうですが、木道がない時代、あるいは今でも雪に埋もれてガスに巻かれたなら、簡単に道迷いしそうな場所です。これまで多くの人が道に迷い、このような伝説ができたのかもしれません。
雲の平から薬師沢、カベッケが原を経て太郎平に登り返し、薬師岳に登ると、裏銀座と呼ばれる山々が一望できます。黒部五郎岳、三俣蓮華岳、鷲羽岳、水晶岳、その前に広がるテーブルのような溶岩台地の雲の平。機会があれば、『黒部の山賊』を携えてぜひ行ってみてください。
太郎平から臨む雲の平。その手前にカベッケが原が広がります。
遠くの山の手前に広がる平なところ。その後ろに、左から三俣蓮華岳、ワリモ岳、鷲羽岳、水晶岳がよく見えます。